平面波


特定の方向に音を届けたい
なるべく遠くまで音を届けたい


静かな池にひとつの石を投げ入れると波紋が生じます。
その波は石が落ちた水面を中心に「同心円状」に広がります。
波は広がりながらだんだんとその波高を低くして行き、やがて消えて行きます。

<図>

波が消えてなくなるまでの中心からの距離は投げ入れられた石の大きさや衝突速度などによって長くも短くもなります。
遠くまで波紋を広げたい場合は投げ入れる石を大きく(重く)したりする必要がある訳です。つまり、中心部に生じたエネルギーの大小で波紋の広がる範囲も変化します。

これは音の世界でも同じで、最も一般的なスピーカーから出る音は池に石を投げ入れられた時に生じる波紋のようにスピーカーを中心に四方八方に広がり、やがて聞こえなくなります。遠くまで聞こえるようにするには元の音量を大きくしないといけません。

ここで問題になるのは、遠くまで音が聞こえる状態を作るとスピーカーの近くでは莫大な音量になってしまい、近くにいる人にとっては喧しくて耐えがたい状態になってしまう事です。また、スピーカーの正面以外の方向にも音が届いてしまうので場合によっては近所迷惑(騒音公害)を引き起こす事にもなりかねません。

そこで出て来る要求は・・・
・スピーカーの向いた方向にだけ音を届けたい
・スピーカーからの距離の違いによる音量差を緩やかにしたい
という事です。
即ち莫大な音量を出さなくても遠くまで音が届くと便利な事が多そうという事になりますが果たしてそんな都合の良い事は可能なのでしょうか?

<図>

さて、前述の池に投げ入れられた石は池全体から見た場合「点」に近似する事が出来ます。同様に私達が日常親しんでいるスピーカーはその構造や設置環境から見るとやはり「点」に近似する事が出来ます。従って、このような音の源(みなもと)を「点音源(てんおんげん)」と呼ぶ事とします。
池の波紋は水平方向にしか広がりませんから少し例えが悪いかもしれません。
そこで、石を「豆電球」に置き替えてみたいと思います。

小学校の理科の時間に扱った乾電池で豆電球を光らせる実験を思い出して頂いたら良いと思います。豆電球の明るさは、近くから見ると明るくても離れて見ると明るさがわかりにくくなります。明るさをより強力にするには電池を沢山(直列に)繋ぐ事で叶いますが、あまり沢山繋ぐと豆電球が切れてしまいますね。豆電球には耐えられる電圧(エネルギー)に限界がある事がわかります。
そこで、電池の数を増やさなくても明るくする方法を考えてみます。
豆電球で照らしたい方向があるなら、そちらの方向以外には光が行かない方が良さそうです。更に、不要な方向に向かう光を必要な方向へと向きを変える事が出来たら明るさが増す気がします。不要な方向に向かう光を鏡などを使って「反射」させる事で「指向性」を持たせるという方法で、懐中電灯でお馴染みの方法です。
同じ事は音でも電波でも行われていて、ホーン形スピーカーやパラボラアンテナが代表的です。

<図>

確かにこの方法で指向性を獲得する事は可能になりますが、構造的に大きく重くなってしまう事が欠点と言えます。技術の進歩と共に様々な工夫がされいろいろな指向性装置が開発されていますが、その多くは構造が複雑だったり制御が難しかったりしますので一部の目的用途以外に広く普及するには至っていません。

さて、音に話の軸を改めて置いてみます。
楽器を含めて、殆どの音は「点」で発生し、その発生源から四方八方に広がりながら伝搬して行くものです。従って、ある離れた位置でのエネルギーは発生源からの「距離の自乗(2乗)に反比例」して減衰してしまいます。だから遠く離れた音は小さくて聞こえ難くなるという仕掛けです。
あの巨大な太陽だって広大な宇宙空間では「点」でしかありません。だから何万キロも何光年も離れた地点に届くエネルキーは小さく僅かなものです。それが摂理と言ってしまえばおしまいですが、それを何とかしたいと思うのが好奇心というか探究心という世界に繋がるのではないでしょうか?

要は「点」だから距離減衰に繋がる訳です。波紋のようにどんどん広がる点だから遠くまで届かない訳です。だから「点」でなければ良い・・・そうなりますね。
遠くまで届く波。私達の周囲にそういったものがあるでしょうか? あります。
身近であってほしくはありませんし、出来れば発生してほしくない「津波」がそれに近いと思いいます。専門家ではないので津波のメカニズムを解説する事は困難ですが、発生した津波は減衰する事無く何千キロも離れた地点を襲う事がある恐ろしい現象である事は知られていると思います。
津波の波は池の波紋のような「点」で発生したものではなく、一定の広さのある「面」で発生し面で動く「平面波」と考える事が出来るかもしれません。
この定義はかなり乱暴かもしれませんが、本職ではないのでお許し頂き点音源の球面波と面音源の平面波の違いに関する例えであるとご理解下さい。

つまり、球面波(点音源)は距離減衰が2乗に比例するが、平面波(面音源)は理論上距離減衰しない筈というのが今回の出発点になります(長かった)。